アイソモカ

知の遊牧民の開発記録

はじめての語用論 第1章〜第3章

文脈や場面なしにことばを理解することはできないのではないかと思い、語用論に興味を持ち、教科書を読んでいます。端的にいうと空気が読めたい。

章末の練習問題の解答を書いてみます。問題を解くと、さらさらっと読んだだけではあまり理解できていなかった部分を読み直せて考えられるので良いですね。正解かどうかは自信がないので、これ違うんじゃない? というのがあったら、ぜひ教えてください(あるいは議論しましょう)。

第1章 語用論とは何か

ことばは単に出来事を叙述するためだけに使われるのではなく、話し手・書き手が、聞き手・読み手に影響を及ぼそうとして使われる場合もある。

練習問題

問1

次の例は電話上の会話である。この会話のやりとりから、どのような語用論的な情報を読み取ることができるだろうか。

(1)

A: So can you please come over here again right now?

B: Well, I have to go to Edinburgh today sir.

A: Hmm. How about this Thursday?

Bの発話の語用論的意味は、「今日は行くことができない」という間接的な断りであるが、それは次の理由による。

  • 我々がテクストを理解しようとする際に前接文と後接文の間に意味的関係性を見出そうとするので(言語的コンテクスト)、Aの問いにBが yes, I can / no, I cannot と直接的に答えなくても不自然な発話にならない。
  • AとBは、「Edinburgh はAのいる場所からは遠い」という知識(一般知識的コンテクスト)を共有している。

問2

小説、映画のシナリオ、広告、キャッチコピーなどを、コンテクストを考慮に入れて分析してみよう。

最近 Twitter で見た話。

@WwZuttonetaiYo:「うちの息子の嫁ね、カレーを豚肉で作るのよ…もうほんまに信じられんわ…」とすごい深刻な顔で年配女性のお客さんから愚痴られたんだけど、数日考えた今も何が悪いのかサッパリわからない…イスラム教だったのか…??

 

@sunameritaaaaan:大阪でも70代以上の年配の方なら、カレーや肉じゃがに豚肉使う=旦那の稼ぎが悪いから牛肉買われへん って偏見があるんやと思う 生活水準が中以上の家庭は特にその傾向が強い だから、そのお姑さんは嫁の育ちを暗に皮肉っている可能性アリです(しかも息子の稼ぎは牛肉買えるだけある筈って前提で)

同じ日本語話者であっても、地域や世代により文化が異なり、コミュニケーションに齟齬が生まれることと、社会・文化的コンテクストの多さに驚いた。

第2章 グライス語用論

まず、会話のなかにある原理(自然法則)、グライスの4つの公理を確認した。4つの公理から、言外の推意が生まれる。公理の新展開についても紹介されている。

練習問題

問1

次の発話では、話し手は、ある会話の公理をわざと破ることによって、聞き手にある推意を伝達していると考えられる。

(1) コンテクスト:話し手は、X嬢が歌った歌を批評している。

Miss X produced a series of sounds corresponding closely to the score of “Home Sweet Home”. (Grice 1989: 37)

その公理とはどの公理だろう。また、この場合の推意とはどのような推意だろうか?

様態の公理(Maxim of Manner)「明快であれ」が破られている。話し手は、明快に ‘Miss X sang “Home Sweet Home”’ と言わない。わざと推意を生み出すことにより、言っちゃ悪いけど下手だったよと伝えようとしている。

問2

「もう」と「まだ」には習慣的推意があると考えられる。

(i) 花子さんはもう資格試験に合格した。

(ii) 花子さんはまだ資格試験に合格していない。

「もう」と「まだ」の持っている習慣的推意とは何か考えてみよう。

慣習的推意は、真理条件的意味(その発話で記述されている現象)から独立した意味。真理条件的意味に対する話者の驚きなどを表す。

(i)

  • 真理条件的意味:花子さんは資格試験に合格した。
  • 慣習的推意:試験に合格したのは話者の想定より早かった。

(ii)

  • 真理条件的意味:花子さんは資格試験に合格していない。
  • 習慣的推意:試験に合格するのが話者の想定より遅い。あるいは、現時点では合格していないが、将来合格する可能性がある。

「やっと」「ようやく」「ついに」「とうとう」も習慣的推意をもつことばだ。

物事をポジティブに捉えて幸せになろう! みたいな話で、コップ中にの水が半分ある時、「まだ半分ある」と思いますか? それとも「もう半分しかない」と思いますか? って話を思い出した。

第3章 情報語用論

この章では、文の中での「背景」と「焦点」、談話や聞き手の意識の中での情報の「新」と「旧」が、助詞や冠詞、アクセントという形式にどう反映されるのかを考えた。

練習問題

問1

以下の2つの文は、いずれも「山田さん」が主語であり、伝達する命題内容も同一であると考えられる。

(1) 山田さんが大阪にいます。

(2) 山田さんは大阪にいます。

これらの文が使われる場面の違いを、焦点・背景・QUD といった用語を用いて説明してみよう。

(1) 「山田さん」は焦点であり、「大阪」は背景である。

(2) 「は」が主語が非焦点の場合に付加される背景マーカーとして働いている。「山田さん」は背景である。

典型的な会話では、お互いに情報提供をして知識を増やすよう、何らかの疑問(QUD, Question-under-Discussion) をめぐって展開される。1と2を回答とする QUD は、

(1') 大阪には誰がいますか。

(2') 山田さんはどこにいますか。

となる。これらが明示的に提示されるか、暗黙のうちに了解される場面で、1と2の文が自然な回答となる。

暗黙のうちに提示される場面を考えてみた:
(1") 
A: 神戸の会社から新規で問い合わせが来たな。訪問して説明したほうがいいと思うんだけど、誰に頼もうか?
B: 山田さんが大阪にいます。山田さんに担当してもらうのがいいんじゃないでしょうか。

(2")
A. 山田さんは、今日は休みですか?
B. 山田さんは大阪にいます。先月から本社勤務になったんですよ。

問2

主語・目的語を標示する格助詞「が」・「を」は、「は」と交替するほか、(話しことばでは)脱落する場合もある。

(3) この時計 [が/は/φ] 壊れているみたいです。

(4) おすし [を/は/φ] 食べたの?

情報構造と格助詞の脱落(の可否)について考えてみよう。

(3)

  • この時計が壊れているみたいです。:「この時計」が焦点となっており、情報状態的に「新」。旧情報は「壊れている」で、問題の原因究明をする中で時計が原因だと分かったような場面での発話と考えられる。このとき、格助詞が脱落すると不自然になる。

  • この時計は壊れているみたいです。:「この時計」が背景、情報状態的には「旧」。「壊れている」が新情報。格助詞が脱落し、「この時計、壊れているみたいです」となっても自然。

(4)

  • 「おすしを食べたの?」:文全体が焦点だが、情報状態的には旧情報、旧情報である「お寿司を食べた」を確認する場面での発話と考えられる。
  • 「お寿司食べたの?」:「おすし」は情報状態的には「新」であるが、背景となっている(取り立て助詞の「は」)。
  • 格助詞が脱落した「おすし食べたの?」は、「を」を使った場合と同値。

問2の(3)(4)を見ると、共通して旧情報の場合に格助詞の脱落が可能だが、他の場合にも同じなのだろうか。これはよく分からなかった。主語・目的語を標示する格助詞「が」・「を」の場合に限るのかも知れない。