アイソモカ

知の遊牧民の開発記録

なんらかの愛が説明し尽くされる良さみ

漫画・小説・映画・ドラマ・音楽… etc. の恋愛モノの恋愛がわからないが、「わからない」でよしとしよう!と思った話の、後編。
今回は、恋愛は物語のなかで説明不要のものとして描かれがちだけど、説明されたくて、説明されることには良さみがあり、だけどちょっとモヤッとするんだよなぁ、という話をする。

なんか、恋愛っていう恋愛は物語のなかで説明不要のものとして描かれがちで、そこがぼくは面白くないんだよな。それに対して恋愛じゃないし友愛とも言えなさそうだしなんなんだこいつら???みたいな関係が発生し物語のなかで説明され尽くされるとき、良さみがあると思う。 https://twitter.com/xipj/status/1604799441080582144

ちなみに前編では、恋愛モノを、異なる作品を横断して共有されているファンタジー的な世界設定だと捉えて読む話を書いた。

isomocha.hatenablog.com

説明が不要であるということ

Twitterのフォロワーが、ボーイミーツガール的な作品の面白さがわからないという話をしていて、そうなんだよな〜〜〜って思った。

ボーイ・ミーツ・ガール(Boy Meets Girl)は「少年が少女に出会う」という意味で、娯楽作品について言う場合は「主人公の少年が、少女に出会って恋に落ち、そこから関係が育っていく」ような物語のことを指す。 ボーイ・ミーツ・ガール - Wikipedia

恋。恋って、何なんすか???

みなさん、わからなポイントは異なるかもしれないけれど。

登場人物が恋に落ちたとき、私は「んっ今、何が起きたの?」と、なりがちだ。ひとがひとを好きになる過程や好きという感情自体を、ちゃんと説明してほしいのだが、恋愛モノ(たびたび雑な括りですみません)では、十分に説明されないことがよくある。重要イベントや主人公や登場人物の気持ちが理解できなかったら、面白くないのは当然だと思う。相性が悪いともいえるのかもしれない。

フォロワ(最初の「ボーイ・ミーツ・ガール」がわからない人とは別の人)が書いていた、わからなみ表明に、それもあるな!!と全ピジェが拍手喝采した。

そうなんだよ、なぜ惚れたんだ!って思うことよくあるよね。
「恋は論理じゃないんだ」みたいな話も聞いたことあるけど、どうなんだろうね。説明するのを面倒くさがってるだけじゃない?

恋に落ちるのがどういうことなのかとか、恋愛感情がどういう感情なのかといったことについて、おそらく多くの人は経験や感覚を通してよくわかっており、あえて説明する必要がないんだと思う。

異なる作品の主人公は異なる恋をするはずで(そうと考えなければ恋愛モノがたくさんある理由を説明できないと思うが)それらの微妙な違いを楽しもうとする試みを、私は諦めた。創作作品はめちゃくちゃたくさんあり、どんどん新作が出ていて、有限の人生ではすべてを読む/観ることができないから、わからないものに割く時間はない。 そうすると、大ヒットしている作品や有名な作品には手を出さないことになり、推しのアクスタがないなどということになるが。

説明されることの良さみ

ひとがひとに特別な想いをいだく過程や感情を十分に説明してくれる作品はある。ここ1年ぐらいでそういう作品に出会えてきて、「ぼくにもわかるお話、あったんだ!?」と驚いた。

「ひと」と書いているが、人間に限らない。

たとえば、「恋愛とも友愛とも言えなさそうだが、なんなんだこいつら???」みたいな関係が発生する物語だ。
あるいは、仲間同士の信頼を超える信頼、尊敬や依存や執着、敵意と愛が同時に存在したり、といったドロッとした何かの気持ちを抱える物語など(「クソデカ感情」と呼ばれるものもある)。

そういった作品を読んだり見たりして、ホァ〜いいなあ〜(語彙力が足りない)となり、過程や感情がちゃんと説明されていたから、わかったのか!!と思った。
そういう作品を読んで/観ていくうちに、感情の解像度がめきめき上がり、作品だけでなく周囲の人間たちや自分自身の感情についても理解が深まった。よき出会いだった。
そして、よき出会いがあったから「わからないものはわからなくていい」と思えるようになったとも言える。

少し横道に逸れるが、理解が深まった結果、このような記述が可能になった:

そういえば、人間って好きな人にはあれこれしてあげたくなる(なんかいろいろ与えたくなる)ものなんですね?みたいなことを最近知った(まだよくわかってない) https://twitter.com/xiPJ/status/1597935547061706753

たぶん人間に対する基本姿勢みたいなのが違うのだろうと思うが、ぼくが特定の人間に特別な気持ちをもつときは「隣に座ってもいいよ」みたいな感じがあり、とりあえずこれを好きと呼んでおくか~と定義したとこがあるんだよなぁ。 https://twitter.com/xiPJ/status/1597937632973008898

恋がわからなくても、ひとに特別な想いをいだくことは、ある。

説明が必要であるということ

ひとがひとに「特別な想い」をいだくとき、「ザ・恋愛」といえるような、ある種類のひとにいだくある種類の想いだけが説明不要のものとして扱われていて、それ以外は説明が必要とされる。ということに、複雑な気持ちがある。

おそらく、説明が必要とされるのは、多くの人が「ここで恋をするよね」と思うであろう状況で恋をしないか、「ここでは恋をしないよね」と思う状況で恋をするか、といった場合があるのではないかと思う。
ひとがひとにいだく特別な想いが説明されるとき、「これならわかる!ありがとう!ありがとう!」となりながら、「ここで恋をするよね/しないよね」という前提があること自体にモヤッとする

多くの人が「ここで恋をするよね」と思うであろう状況

私が大好きな作品に、小説「ニューロマンサー」がある。サイバーパンクの始祖と言われSFのギミックが注目されがち(で、実際すごいの)だが、ひとがひとにいだく特別な想いが説明されるという点においても、すごい。

「あんたの女だか、ケイス」
「わからん。誰の女でもないんだろうな」 ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』(ハヤカワ文庫SF)

ここで話されている「女」モリィは、ヒロイン的なキャラクターだ。モリィは序盤で、主人公の男ケイスを薬物漬けのクソ生活から助け出しにくる。ケイスとモリィのあいだには肉体関係もあり、多くの人が「ここで恋愛するよね」と思うであろう状況に思えるが、恋愛はしない。モリィは「ケイスの女」であるか、いずれそうなるように思われるが、モリィはずっと「誰の女でもない」のだ。

かれらはお互いに、何か特別な想いをもっている。その想いが説明され、私にとって理解可能であり、友情や仲間に対する好意を超えていて、しかし恋愛でもない何かだと感じた。そういうところも、この作品の好きなところだ。

多くの人が「ここでは恋をしないよね」と思うであろう状況

説明が必要な、ひとがひとにいだく「特別な想い」には、ブロマンスやシスロマンスもあるし、巨大感情(クソデカ感情)と呼ばれるものなどもある。

上で書いた、

仲間同士の信頼を超える信頼、尊敬や依存や執着、敵意と愛が同時に存在したり、といったドロッとした何かの気持ちを抱える物語

というような、説明が必要な「特別な想い」は、男同士や女同士の関係のなかで描かれることが多い。特別な想いが説明されるとき、「わかる!あぁ、いいなぁ!」と感じながら、なぜ同性間で説明されがちなのだろう?と考えた。

創作において、男と女との関係と、女と男の関係、女と女の関係、男と男の関係は、違う描かれかたをする。違う描かれかたをするのは、「男はこういうふうに振る舞うよね」「女は男に対してこう接するよね」というような前提から生じるのだろう。
また、同性間の関係においては「ここでは恋をしないよね」と思う人が多く、恋の過程や感情の説明が必要とされるのだろう。常日頃から説明を求められがちだということが、「特別な想い」が描かれる土壌としてあるのではないか。

説明の要不要

「ここで恋をするよね/しないよね」という前提や、ひとがひとにいだく特別な想いを説明する必要があるかないかは、性役割ジェンダーロール異性愛規範ヘテロノーマティヴィティというようなものが背後にあるだろう。

異性間の恋愛(たとえばボーイ・ミーツ・ガールで主人公が恋に落ちること)が説明不要になりがちなのは、多くの人が「ここで恋をするよね」と思うであろう状況で恋をするからだ。だが、異性間の恋が説明不要であるなら、同性間の恋も説明不要であってほしい(し、実際そういう作品はある)。ボーイ・ミーツ・ボーイやガール・ミーツ・ガールも説明が不要でなくてはフェアじゃない。それが私にとって「わけわからないな」と思うものであったとしても。

私は、ひとがひとにいだく「特別な想い」が説明されるのを読むのが大好きだ。
だが、それが同性間で描かれがちな状況が、私が日頃からキモいと思っている「男は/女はこうあるべき」「異性に恋愛感情を持つよね」や、ひとびとを男か女かに二分する考え方などによって培われた土壌なのでわ?と思うと、どうしようもなく憎い。

 

そういうモヤモヤがを抱えながらも、説明し尽くされる良さみを求めている。

 

ところで、恋愛伴侶規範についても、考えたいところがあるわね。でも今回はおしまいです。

マーダーボット・ダイアリー主人公の弊機(構成機体、性別:該当なし)とメンサー(人間、女性)の関係を語ってもいいか? 物語のなかで、弊機はメンサーを武力的に助け、メンサーは弊機を人間関係/社会的に助ける。弊機は恋愛感情をもたないんだけど、ふたりの依存関係に、私はシスロマンスに近そうななにかを感じていて、とてもよい。下巻の時点ですでに良さみがあるが、最新巻「逃亡テレメトリー」収録の「ホーム――それは居住施設、有効範囲、生態的地位、あるいは陣地」までたどり着いたら、最高になる。

ピジェベント Advent Calendar 2022 - Adventar 20日目の記事でした。