アイソモカ

知の遊牧民の開発記録

どうやっておすすめ(&おすすめSF)

先日、「ひとに映画や小説をおすすめするときは、まず『①一般向けに良かった点』、次に『②自分に刺さった点』を言うといいのでは?」という話を聞き、なるほど!?となった。

2022年10月下旬に書きかけだった記事を加筆修正して投稿

ピジェベント Advent Calendar 2022 - Adventar 13日目

映画、小説、マンガ、etc. といった作品について「〇〇が好き」「〇〇読んだ/見た!面白かった!」みたいなことをツイートに書いたり、雑談のなかで話したりすることがある。一方で、オススメ文を書いたり、筋道立てて紹介したりするのが、めちゃくちゃ苦手だ。

好きみ良さみが溢れ整理できないからだろうか?
優先順位付けが苦手だからか?
しかし、そういった好きや良さを「①一般的にそうかな」と「②自分だけかも」に分けて整理するというのは、言われてみれば自然っぽいというか、受け取りやすそうだな〜と納得した。

冒頭のおすすめ方法を教えてくれた人(あらBさん)は、「〇〇はいいぞ」だけでオススメしてよいのは、たくさんの人に刺さる一部の作品だけだ、とも言っていた。たとえば、「プロジェクト・ヘイル・メアリーはいいぞ」は、大丈夫らしい。

しかし、私がバチバチにハマる作品には、たくさんの人に刺さるというわけではないものも多い。そんなとき、「ピジェさんはこの作品のここが好きなんだな」という情報があると、作品を受け取る助けになるらしい。なるほどね。

ちょっと、やってみます!

ピジェの天堂入りSFを3作品おすすめします!

オートマタ(映画)

『オートマタ』(Automata)、ガベ・イバニェス監督、2014年

オートマタ(字幕版)

オートマタ(字幕版)

  • アントニオ・バンデラス
Amazon
①一般向けに良かった点

  • 人間には理解不能な知性を持ち、自己修復するロボットたちが不気味で良い
  • 荒廃した都市と砂漠の、サイバーパンクサイバーパンクしてる世界
  • ロボットたちは、人形遣いが動かしてる(メイキング映像見るとわかるんだけど、完全CGでもなく、人間の役者が入ってるわけでもない)ので、独特のカクカクした動きをしていて、面白く、世界観と合ってるなあと思う

②自分に刺さった点

  • ディストピアみのある閉塞感と、ロボットたちのつかみどころのない不気味さが好き
  • そのなかで、子どもに未来を託すところが心温まる
  • 独特の雰囲気があるのは、ハリウッドではなく、スペイン・ブルガリア映画だからだろうか?(言語は英語)
  • 主人公は、ヒーローではない。周りに流されっぱなしでヘタレなところが、共感できる

「主人公、何考えてるのかわからないし、家族に迷惑かけててクズだよね」というような感想を聞いて、「だよね、たぶんそんなに強い意志とかがないんだよね、私はそこ好きだぞ?」と思った。他人の感想を聞くと、じぶんの感じたことが明確になり、感想をまとめやすくなりそう!

ニューロマンサー(小説)

『ニューロマンサー』(Neuromancer) ウィリアム・ギブスン 著、黒丸尚 訳、早川書房

①一般向けに良かった点

  • 主人公のハッカー(電脳空間サイバースペースカウボーイと呼ばれている)が、宇宙コロニーや電脳空間上で人間やAIとやりあう話
  • 「サイバーパンク」の元祖。あらゆるサイバーパンクもの(映画ブレードランナー、攻殻機動隊など)はみんなこの小説に影響を受けていると思う
  • 独自の用語が多く、世界設定がなかなか把握しにくいので、玄人向けっぽい(理解できなくても、なんとなく雰囲気と勢いで読むのが良いと思う)
  • 最初の舞台は千葉市チバシティ

②自分に刺さった点

  • 「好きな小説は?」って聞かれたら、ニューロマンサーって答えてる
  • 小説や映画全般に、はじまりのところで「ここはどこ?わたしはだれ?」みたいなのを探ってく感じが大好きなのだが、この小説はわからない概念がたくさん出てきてずっと探りながら読むはめになって楽しい(2周目も楽しめる)
  • 主人公ケイスは、人生を悲観するヤク中で、こういう情けないヤツ、大好きなんだよなあ。肉体と他者への捨てきれないしがらみとか情みたいなのが魅力的……
  • ケイスとモリィの関係は、相棒と呼んでもいいのか微妙だ。お互いに特別な思いを抱いているが、恋愛感情とは違う。何で呼ぶのかわからないけど、そこも良い

マーダーボット・ダイアリー(シリーズ、小説)

『マーダーボット・ダイアリー(上・下)』マーサ・ウェルズ 著、中原尚哉 訳、創元SF文庫

今出ているシリーズは、3つ:

  • マーダーボット・ダイアリー(上・下)
  • ネットワーク・エフェクト
  • 逃亡テレメトリー

続編も出る予定らしい。上・下だけで一旦完結するので、そこから読み始めるとよさそう。

①一般向けに良かった点

  • 語り手=主人公は、半分人間で半分ロボットみたいなやつで(構成機体と呼ばれている)、一人称が「弊機」(語り口調と、翻訳者の語のチョイスが面白い)
  • そんな弊機が、惑星調査に行く人間達の警備をしていて、トラブルが発生したり戦ったりする話
  • SFのなかでは、スペースオペラというサブジャンルに入るっぽい(スターウォーズとか宇宙船に乗って悪いやつらと戦うじゃん?そんな感じ)
  • 弊機は、感情的な人間を冷静に批判するのに、自身も感情的で正直なのが魅力的。たとえば最初にヤバい生き物に突撃して冷静に人間を救助した直後に、「人間と同じ空間にいると気まずい」と弱音を正直に吐いたりする。嫌なことあると連続ドラマに耽溺したくなるとことかも、かわいい。
  • 世界設定の作り込みもいい。企業が惑星を所有したり開発したりしてて、奴隷労働もある社会。SFって、政治色強めに問題提起する作品あるよね。

②自分に刺さった点

  • 弊機の感情描写が好き。物語って、自分や他人の感情を理解する助けになるところがあるんだよな〜と思う
  • 「他人や自分の感情がよくわからない」「自分は人間ではないのかも」と思ったことのある人に刺さりそう(主人公の「弊機」がそういう感じなので)
  • また、性別しっくりこない勢として、自分には性別はないと断言する主人公に、絶大な安心感がある(一般に人は同性に共感しがち的なやつ?)
  • 登場人物の9割ぐらいたぶん女性で(数えてないが)、最初ちょっと怯んだが、いや、古典的なSF小説って登場人物の9割が男性とかよくあるんだよな〜って気づいた
  • 性別といえば、女/男以外の性別の人間(she/he以外の代名詞を使う人)や、同性の配偶者がいる人間、ポリアモリー的な婚姻関係も普通に出てくる。(これも政治色が強いところに関連しているのかもしれない?)(いろんなひとたち、特に自分に似てるとこある人が出てくる物語って、いいよね)
  • 友情なのか何なのかよくわからない不器用な人間関係、超仲悪いけど協力し合う仲間、みたいなのが、あっちこっちに出てくるのが好き
  • 英語版とAudibleを買う勢いでハマったので、また機会があったら語りたい

機会がなくても、実はちょいちょい言及していて、一昨日の記事 犬、悲しみは悲しみです - アイソモカ でも、ちょっと書いてたな〜